海に沈むまで

本・映画・音楽など作品の理解を深めるための記述

#5 映画「きみの色」感想

1. はじめに

こんにちは。先日、劇場で「きみの色」というアニメーション作品を観てきました。

今回はその感想文を書いてみたいと思います。

ごくごく私的な解釈を書き綴っただけですが、

作品の内容把握や一解釈として読む分にはいいかもしれません。

よろしくお願いします。

 

 

2. あらすじ(ネタバレなし)

キリスト教系女子高校に通う主人公とつ子には幼い頃から人間がもつ「色」を視ることが出来る才能がある。しかし、長い間自分の色はわからずに悩んでいた。ある時、校内で美しい青色をもつ同級生きみに出会うが、彼女は突然退学してしまう。古書店店番をしつつギターを弾くきみと再会したとつ子は、その場に居合わせた音楽好き・医学部志望のるいと三人でバンドを組むことを唐突に提案する。やがて三人は音楽という表現を通じて、各々の苦悩に向き合っていくことになる。とつ子は自身の「いろ」を見出すことが出来るのか。「けいおん」「聲の形」「平家物語」を手掛けた山田尚子監督の最新劇場アニメーション作品。

 

 

3. 感想(ネタバレあり)

どんな作品だったかを一言で言うと、「3人の高校生が音楽を通じて成長する話」と言い表せるでしょうか。

 

①登場人物とストーリー

主な登場人物は3人いまして、主人公の高校3年生のとつ子、その同級生きみちゃん、医学部志望のるい君です。

三人はとつ子の唐突な提案によりスリーピースバンドを組むことになります。

それぞれとつ子:鍵盤、きみちゃん:エレキギター、るい:シンセサイザーテルミンバンドマスター(?)を担当します。

三人はるい君が住む離島の古い教会で演奏の練習を重ね、

それぞれがオリジナル曲を作ろうと話が進みます。

最終盤でとつ子の高校の聖バレンタイン祭(文化祭?)のステージでオリジナル曲を披露し、

映画が終わる、というのがざっくりとした流れです。

三人が出会ってから、音楽を作り、一緒に演奏する過程の中で、

それぞれが抱えていた悩みや葛藤を乗り越えて、成長していく過程がこの作品では描かれています。

 

②登場人物たちの悩み

三人は何に悩んでいたのか?

それぞれをの悩みを以下のように解釈しました。

とつ子の悩みは個性を色としてとらえることが出来るような能力があるのに、自分の色だけが分からない事。

(つまり自分の個性がつかみ切れていない。冒頭では教会でありのままを受け入れること」と、祈っていた)

きみちゃんの悩みは本当は自分が周囲が期待するような良い子ではないのに、そのように扱われることへの後ろめたさ

自己と他者の評価のギャップから生じる葛藤. みんなはそう言ってくれるけど、本当は全然そんなじゃない、というもの

るい君の悩みは受験勉強の時期に音楽をする後ろめたさ。

(彼は親に医学部進学を期待されており、本当は好きな事よりも勉強を優先しないといけないと考えていると推測)

 

③印象に残った事

 ・映画の最終盤、文化祭ステージの演奏シーン

3人が選んできた衣装を身を包んで、オリジナルの3曲を演奏しました。

このシーンで言えることは曲!全部全部良い!ということですね。

目も耳も釘付けになり、観終わった後はバンドやりてぇ!って気になりました笑

 

セットリスト

1. 反省文~善きもの美しきもの真実なるもの~

(作中におけるきみちゃん担当曲; 作詞: 山田尚子; 作曲・編曲:  牛尾憲輔

2. あるく

(作中におけるるい君担当曲; 作詞: 山田尚子; 作曲・編曲:  牛尾憲輔

3. 水金地火木土天アーメン

(作中におけるとつ子の担当曲作詞: 山田尚子; 作曲・編曲:  牛尾憲輔

 

それぞれ3人の内面が音楽で表現されているようです。

例えば、きみちゃんが作詞作曲した「反省文~善きもの美しきもの真実なるもの~」はとつ子がきみちゃんを寮に泊まらせていた件で書かされていた「反省文」という単語がそのまま歌で使われています。

他にも「まるで迷える子羊みたいだ 光をもとめて反省文」「希望と期待」「あいまいな境界のない」などの文言が歌詞にあります。

実際に書かされていた反省文は、同居する祖母に退学を言い出せず、修学旅行期間中にとつ子の部屋に滞在していた事に対してでした。

歌の「反省文」は単なる寮則違反に対してだけでなく、勝手に退学し、祖母の期待を裏切るようで言い出せずに嘘をついていた事に対しても歌ってるのかなと思いました。

(それは優しい嘘であるということ、音楽で表現したらどうか、とシスターが助言をしていましたし、祖母を文化祭のステージに招待していたので。)

(ていうか高校って親に知らされることなく辞めれるんですね。)

全編にわたって鳴る歪んだエレキギターのバッキングがきみちゃんの透き通った声と上手くマッチしてるなと感じました。厚めに鳴る裏拍のビートが心地よいです。

 

るいくんが作詞作曲した「あるく」では灯(あかり)や水、波といった単語が含まれ、

離島に暮らす彼らしい言葉選びだと思いました。

(歌詞が抽象的で解釈がむずい!)

 

そういえば、映画を観た方はわかると思うのですが、るい君が手を上下に動かして鳴らしている楽器は「テルミン」という垂直・水平方向に延びたアンテナと手の距離で音高と音量をコントロールして音を出す世界初の電子楽器だそうです。

ご興味があればwikiへどうぞ。

テルミン - Wikipedia

 

とつ子が作詞作曲した「水金地火木土天アーメン」はきみちゃんとるい君との出会いが歌になったようです。

これが文化祭ステージ最後の曲で、ここまでがバラードだったため穏やかな静寂に包まれていた体育館に8ビートのハイハットが刻まれ、そこにるい君のシンセが乗り、何が始まるんだという期待感がありました。

きみちゃん「水・金・地火木・土天アーメン♪」

最初聴いたときそれ曲になったんか!と心の中でツッコミました。

というのも、三人で作曲しようという話になった時に、とつ子が水金地火木土天アーメンとブツブツ言っていて、あまりにも素っ頓狂なワード過ぎて本当に曲になるとは思ってませんでした笑

そんなことより!この曲!アップテンポでノリが良い!

トレモロとコーラスのエフェクトが印象的なギターリフ、支配的に鳴る多彩なシンセサイザー、ノリたくなるような強弱の効いたビート、きみちゃんととつ子のダブルボーカル、耳にいつまでも残るようなリリックとリフが頭の中でリフレインしています。。。

ホントいい曲です。聴きながら書いています。

 

「”きみ”の色が脳天をぶち抜いた」

「このまま二人で宇宙の果てまで」

「とつぜん現れたルイ線」

「こいつは絶対三体問題」

 

歌詞には二人との出会いを意味する言葉が並び、ステージの最後の曲としても、

映画のラストとしてスゲーいいなぁと集中して見入って聴きました。

(きみちゃんととつ子のユニゾンパートがめっちゃ良い。。。)

 

相対性理論の「パラレルワールド」っぽい良いギターリフだなとうっすらと感じたんですが、そのギタリストである永井聖一さんが演奏協力されていたとinstagramで拝見しました。なるほど、なるほど。

 

・作画

個人的に、山田監督の作品では精緻かつ色鮮やかに描かれた風景が描かれるといった特徴があると思っています。

今作でもふんだんに見受けられたように感じました。

例えば、とつ子の寮部屋。

何と表現したらいいのか難しいのですが、女の子の部屋をキレカワ(綺麗かつ可愛い)に描くのすごい上手い。。。

そしてそこに微妙に生活感を感じるからすごいのですよね。

聲の形」の西宮家は生活感強めだったので、その辺の塩梅がすごく上手いということなんでしょうか🧐

(絵はわかりませんが)

あと、繊細に描かれた植物が多く出てくるのも山田監督の特徴かな?という気がしました。

「きみの色」ではミモザ金木犀などが出てきましたし、中庭の草木もカットとしては短いはずなのに一本一本描いている事にこだわりを感じました。

 

あと、ギャグみたいなリアクションも面白かったですね。

きみちゃんがバンドをやりたいと言ったことに対するとつ子の表情変化が、たまこまーけっとけいおんで目にしたようなギャグのオーバーリアクションみたいでとても可愛かったです。

 

・ ラストシーンと主題歌

本編ラストは文化祭を終えた後、とつ子が色とりどりの草花が咲く寮の中庭でまるで自由にバレエを踊るシーンでした。

太陽に手をかざしたときに、ふとその手に自身の色を見つけ、悩みを抱えたまま、二人と音楽を楽しみ、自分らしく振る舞っていたらふと、あ、こんな目の前にあったんだという風に描かれていた気がして、とても印象に残っています。

そんなラストシーンの後に、余韻に包まれながら主題歌「in the pocket」を聴きました。

感想としては、本当に映画にぴったしな主題歌だなと感じました。

映画の内容を踏まえた歌詞も明るい曲調も、リズムも何もかも。

歌詞は主にとつ子の事を書いています。

「in the pocket」自体は7月に参加したミスチルのライブで初めて聴きました。

「きみの色」抜きに、初めて聴いた時の感想としては全編にわたって単調なドラムが鳴り、エレキピアノの音色とメロディが良く、

歌詞も前向きで、明るい曲という印象でした。

なんだかこういう明るい曲がミスチルが新曲で出すのは久しぶりの感じがして、

個人的には「君のいろ」を観る前から結構好きでした。

(8/30のリリースが待ち遠しかった)

 

で、映画を観てから聴くと、全く受け取り方が変わりましたね笑

ましてや桜井さんが脚本を観て曲を作り、さらに「きみの色」音楽監督牛尾憲輔さんと共同編曲されていたとは。。。

in the pocket (Mr.Childrenの曲) - Wikipedia

 

牛尾憲輔さんは「聲の形」の音楽監督もされていたので知っていて、

「lit(var)」「frc」など一瞬で場面をフラッシュバックするような印象的な音楽がすごく好きです。

(特に「frc」に感じる不穏な気配はそのシーンと併せて聴くとすごいです)

「in the pocket」では聲の形のサントラを聴いたミスチルの面々のオファーにより鍵盤を担当され(!)、イントロにとつ子の通う高校のチャイムが採用されたのも牛尾さんのアイデアだったのですね。

イントロでチャイムの音を聴くと、劇場でエンドロールを観ていた時の自分に一瞬で戻れるような感じがします。

歌詞はまんまなので触れるまでもないのですが、とつ子がきみちゃんとるい君が出会ってから、ラストまでのすべてが詰まってると思います。

個人的には爽やかな風が吹き抜けていくようなサビがとても好きです。

(ていうかもしかして「in the pocket」のジャケット、ラストシーンのとつ子まんまじゃないですか??)

今作はアーティストとしてのMr.Childrenというよりも、映画音楽作家色の強い曲なのかと思いました。

今後、この曲を聴くたびにこの作品を思い出すことが出来そうです。

 

in the pocket - Single - Mr.Childrenのアルバム - Apple Music

 

④「きみの色」を観た理由

最後にこの作品を観た理由について書いて終わりにします。

二つありまして、まず山田尚子監督作品であること、そして主題歌がミスチルであるためです!(ごくごく私的な理由です)

 

山田尚子さんは「映画けいおん!」、「たまこラブストーリー」、「聲の形」などで知られるアニメーション監督です。

2004年に京都アニメーションにアニメーターとして入社された後、初監督作品「けいおん!」をはじめとする数々の作品に携わり、多数の賞も受賞されています。

(現在はフリーランスだとのことです. 「きみの色」の制作はサイエンスSaru. )

 

どこで知ったのか、という事ですが、中高生の時にハマっていた「けいおん」で知りました。

ほのぼのとした日常、絵の世界観、劇中歌がすごく気に入っていて、学校から帰ってニコニコ動画で文化祭のライブシーンを何度も観てました。

制作サイドについて無知なままアニメを観ていましたが、確か、「映画けいおん!」の制作ドキュメントで初めて山田監督を知りました。

自分と一回り離れていないんじゃないかというくらい明らかに若くて少し驚いたのと、けいおんの印象的なEDアニメーションの絵コンテを書いている様子が印象に残りました。

以降、京アニ作品のクレジットを何となく意識するようになりました。

また、「たまこマーケット」「聲の形」など山田監督の京アニ作品が好きな事に気が付きました。

聲の形Blu-ray disc・設定資料集・原作所持, 劇場で3回見ました。。。)

これまでは作品を観てから山田監督だったんだ!と気づくことが多かったのですが、今回は監督作品だからという普段とは逆方向からの興味で「きみの色」を観てみよう、となりました。

 

また、当方、F&M13年目に突入するミスチルファンです。

多くの人に共感してもらえるかと思うんですが、映画館の暗がりの中、エンドロールをぼんやり追いつつ物語を回想する、

10分間にも満たない刹那的で充足した余韻に浸りながら、その映画の主題歌を聴く時間が好きです。

 

先日、ミスチルのライブで主題歌「in the pocket」の生演奏聴いてきまして、最近のミスチルにしては珍しい曲調で、思わず作品と併せて聴きたいなと思いました。

帰ってからタイアップ作品をチェックすると、なんと山田監督作品ではないか!

 

好きな映画監督×好きなアーティストという俺得でしかないこの作品、観にいくしかないと思いましたね。

あと、思いもよらぬところで好きなもの同士がかけ合わさるとすごく嬉しくて、幸せだなぁと感じました。

 

おわりに

書きたいことが沢山あって映画を観てから結構時間たってしまいましたが、何とか書ききれました。

書きながら、もう一度「きみの色」を観にいきたくなりましたね。ではまた。